Search

焦点:戦争の「隠れた前線」、ウクライナで家庭内暴力が大幅増加 - ロイター (Reuters Japan)

[ドニプロ(ウクライナ) 3日 ロイター] - 1月8日夜、リューボフ・ボルニアコワさん(34)の遺体がウクライナ中部の都市ドニプロの自宅で発見された。検視官は75カ所の打撲傷が確認されたと報告している。

8月3日、リューボフ・ボルニアコワさん(34)は1月、ウクライナ中部の都市ドニプロの自宅で遺体で発見された。写真は5月、リューボフさんの墓参りををするおばのカテリーナ・ウェドレンセワさん(2023年 ロイター/Alina Smutko)

リューボフさんの親族と隣人によれば、夫のヤコフ・ボルニアコフさんは軍を脱走し、事件前の1カ月間は自宅アパートに身を潜めていた。リューボフさんの死に至るまでの2週間、夫は酒浸りになり彼女を何度も殴っていたという。

「腕、顔、足、殴られた跡がない部分がなかった」

リューボフさんが死亡した数時間後にアパートに到着したおばのカテリーナ・ウェドレンセワさんは、そう振り返った。

ドニプロ警察の広報官は、リューボフさんの死に関して刑事捜査が行われていると述べ、詳細については明らかにしなかった。

2022年2月にロシアによる侵攻が始まった当初は、ウクライナにおける家庭内暴力(DV)の報告件数は減少していた。数百万人が戦火を逃れて避難したためだ。

だが今年に入り、避難していた家族が自宅に戻ったり新たな住居に落ち着くなかで、DVの件数は急増しているという。ロイターが検証した、これまで報道されていなかったウクライナ警察のデータから明らかになった。

データによれば、今年1─5月に報告された件数は昨年同時期と比べて51%増加した。過去の最多記録である2020年よりも30%以上も多い。専門家は、この年はコロナ禍によるロックダウンが背景にあると指摘していた。

ロイターがDV問題に取り組む当局者や専門家10数名に取材したところ、こうした増加は、ストレスや経済的な困難、失業、侵攻に関連したトラウマが原因だという。事件の大半では、被害者は女性だ。

ウクライナでジェンダー政策担当委員を務めるカテリナ・レフチェンコ氏は、5月にロイターのインタビューに応じ、「(DVの増加は)心理的な緊張と、多くの困難のためだ。人々はすべてを失った」と述べた。

警察では、2023年1月から5月までに34万9355件のDV事件を記録している。これに対し、2022年の同時期は23万1244件、2021年は同19万277件だった。

ロイターの取材に応じた専門家や弁護士の大半は、戦争が続く限りDVを巡る状況は悪化し、戦争終結後も、前線から戻った戦闘員が負った心的外傷のために長期化するのではないかと懸念している。

<中継地点>

ドニプロは、ロシアに占領された地域から逃れる人々と、東部や南部の前線に向かう人々の中継地点となっている。

この街では、政府と国連人口基金(UNFPA)が、DVから逃れた人のための救援センターを運営している。昨年9月の開設から5月中旬までに800人に支援を提供したが、その大半は女性だった。

救援センターで働くケースワーカーによれば、支援を受けた人のうち警察に被害を届け出たのは約35%にすぎないという。DV問題に取り組む専門家や弁護士が指摘するように、警察のデータが示すよりもDVが広がっている可能性がある。

救援センターの心理学者テチャナ・ポゴリラ氏によると、戦火を逃れてドニプロに避難してきた人々のなかには、不慣れな土地にいるせいで、自分を虐待する者への依存を強めてしまうDV被害者も存在するという。

「ドニプロに逃れてきて、一家が1つの部屋で暮らすことになる場合もある」とポゴリラ氏は語る。「仕事が見つかればいいが、見つからずに生活が苦しくなる人もいる。さらにウクライナを巡る国際情勢と不安が加われば、ストレスと対立が増大する」

戦争により、国の財源も限界に近づいている。

前出のレフチェンコ氏は、女性のためのシェルターの一部は戦火を逃れてきた人々を収容するために転用されており、ジェンダーを理由とする暴力への対策に割り当てられた国家予算の一部が防衛費に振り向けられていると話す。

ジェンダー関連暴力対策の予算は、2021年の約1000万ユーロ(約15億6000万円)から、今年は420万ユーロまで減少したとレフチェンコ氏は言う。

ウクライナ検察庁で子どもの利益保護及び暴力対策局を率いるユリア・ウセンコ氏によると、警察・検察当局は、前線から帰還する心的外傷を負った兵士たちを巡る潜在的な課題を警戒してきたという。

ウセンコ氏は、検察庁は2月、DV関連の裁判手続きを検証する部門を設立したという。

だが、社会福祉関係者は財源不足を懸念している。

避難民のためのシェルターを運営するドニプロ社会福祉センターのリリア・カリテイウク所長は、「DV発生率が非常に高くなると予想している」と語る。

<暴力の連鎖>

ロイターが閲覧した資料によれば、夫のヤコフさんは11月に軍を脱走した。隣人のオルガ・ドミトリチェンコさんの話では、夫はドニプロに戻ると自宅で酒を飲んでは妻のリューボフさんを殴るようになり、彼女は外出しなくなったという。

リューボフさんは亡くなる数日前、西部の都市リビウに向けて出発する計画を立てたが、「間に合わなかった」とドミトリチェンコさんは言う。「早く逃げなさいと言ったのだけど」

現在リューボフさんの3人の子どもは、ドニプロにある母親の墓まで車ならさほど時間のかからない場所で、いとこたちと共に暮らしている。

ロイターが閲覧した1月27日付の警察の報告書によると、リューボフさんの死因について医師が心臓発作であると結論づけたため、警察は当初、捜査を打ち切った。

遺族の弁護士であるユリア・セヘダ氏はこの決定に対して、心臓発作は激しい殴打によって引き起こされたものだとして異議を申し立て、受理された。3月28日付の裁判所の文書では、リューボフさんの死に対する刑事捜査が再開されている。

「DVで起訴されれば、それだけでも大きな勝利だ」とセヘダ氏は述べ、いまだにDVは夫婦間で解決すべき私的な問題だという意見を持つ裁判官や警察官がいると説明する。

DVに対して有罪判決が出るとしても、ウクライナ法のもとでは禁固2年が最も厳しい量刑となる。加害者の多くは、170-340フリブナ(650─1300円)の罰金を科されるか、社会奉仕を命じられるだけだ。

レフチェンコ氏は、2015年の警察及び司法制度の改革を経て、DVはようやく犯罪として処理されるようになり、専門の法執行機関が設けられたと語る。

レフチェンコ氏によれば、DV事件の報告件数が増加しているのは、警察がこの問題に対してより大きな関心を払うようになったことの反映だという。

隣人のドミトリチェンコさんは、リューボフさんが夫の暴行について正式な通報をしたことは1度もなく、ドミトリチェンコさんが11月に警察を呼んだときも、ドアを開けようとしなかったと語った。

リューボフさんの遺族は、彼女の墓から夫の苗字を削除し、旧姓に変えようとしている。

「彼女の名前は、リューボフ・ピリペンコです」

おばのウェドレンセワさんは、リューボフさんの墓参りをしながらそうつぶやいた。

(翻訳:エァクレーレン)

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細
https://ift.tt/PkzxRcm
世界

Bagikan Berita Ini

0 Response to "焦点:戦争の「隠れた前線」、ウクライナで家庭内暴力が大幅増加 - ロイター (Reuters Japan)"

コメントを投稿

Powered by Blogger.