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米大統領選 残された地雷(The Economist) - 日本経済新聞

The Economist

4年前の今ごろ、2016年10月28日、米連邦捜査局(FBI)のコミー長官は大統領選の民主党候補だったクリントン氏の私用メール問題で捜査の手がかりとなり得る新しい電子メールを発見したと発表した。クリントン氏は当時10月中旬の世論調査で今のバイデン候補と同じくらい大きくリードしていたが、この発表から12日後、敗北宣言をすることになった。

今回の米大統領選挙では郵便投票が急増しているが、最大の懸念はその集計にあるという=ロイター

今回の米大統領選挙では郵便投票が急増しているが、最大の懸念はその集計にあるという=ロイター

今年の投票日は4年前にトランプ氏が当選した11月8日ではなく同3日で、投票までの残り日数はコミー氏の選挙介入から投票日までの日数より少ない。つまりトランプ氏が対立候補との差を縮めるのに残された時間はわずかだ。だが前回の大逆転を踏まえ、米有権者は今年も何か大逆転になる要因を見落としていないかと慎重になっている。

■92%の確率でバイデン氏勝利というが

バイデン氏は世論調査でトランプ氏に大差をつけており、本誌(The Economist)はバイデン氏が92%の高い確率で勝利すると予想している。トランプ氏がバイデン氏より多くの選挙人を獲得するという残る8%の確率でトランプ氏が勝利する場合は、16年とほぼ同じ展開で勝つという予想だ。

トランプ氏が昨秋にニューヨークから定住地を移した地元フロリダで勝利し、前回大勝したアリゾナ、ジョージア、アイオワ、ノースカロライナ、テキサスなどの州を手中に収め、ペンシルベニアと、前回も同氏を選出したミシガンとウィスコンシンのどちらかで勝てば、形勢を逆転できるだろう。世論調査を見る限りこの実現性は低いが、4年前の世論調査では激戦州でのトランプ氏の強さは過小評価されていた。

バイデン氏は支持率でほぼ常に5~10ポイント上回っており、極めて安定している。だが今回の大統領選はパンデミック(世界的大流行)下で実施されるため、有権者の投票行動は既に通常とは異なる様相を見せている。投票締め切りまで2週間を切った今、残された最大の不確定要素とはどんなものか見ていこう。

■党員登録数では共和党の方が大幅に拡大

一つは、選挙戦の動向を制するとされる重要州の有権者の党員登録で共和党が民主党を上回っていることが重要な意味を持つかどうかだ。

党員登録の場として従来、使われてきた大学や教会は全米のほとんどの地域で閉鎖されているか入場が規制されているが、共和党はパンデミックの間、民主党より多くの戸別訪問を実施し、有権者に登録を促してきた。フロリダとペンシルベニアでは3月以降、民主党より10万人を上回る登録者を獲得、アリゾナでは8月中旬以降、登録者数が民主党を3万人以上、上回っている。

通常、政党登録と実際の投票先の間に密接な関連はない。例えばケンタッキーとウェストバージニアでは民主党の登録者数が共和党を上回るが、選挙ではトランプ氏の勝利がほぼ確実視されている。フロリダの04~16年までの民主党の登録者数と得票率の変化を本誌で調べたが、そこには相関関係はなかった。

16年に大逆転が起きた一因は、投票先を決めかねていた有権者が直前にトランプ氏支持に流れたことだ。今回も同じ現象が起きるだろうか。

可能性はある。だが今回はまだ投票先を決めていないか第3政党に投票する有権者数はずっと少なそうだ。本誌と英調査会社ユーガブによる世論調査では、こうした有権者の割合は16年のこの時点で14%だったが、今年は6%にすぎない。彼らは投票先を既に決めている有権者より平均年齢が低く、非白人比率が高いことからバイデン氏に投票する可能性が高いとみられ、トランプ氏にはあまり肯定的でないようにみえる。投票先を決めていない有権者の中で、現大統領を支持すると答えた人はわずか31%だった。

■投票日当時の極右の動きが注目

むしろ不確定要素としては、予期せぬことが投票日に起きることを懸念した方がいいかもしれない。トランプ氏は自身の支持者に「投票所に行き、注意深く監視」するよう促した。見方によっては、この言葉を警戒する必要はない。投票所には選挙監視員が常駐している。両政党とも、訓練を受けた数千人に上る監視員を投票所に派遣している。州によって規則は異なるが、一般的には政党または選挙陣営が監視員を指名し、登録して彼らを訓練し、不正行為がないか監視させる。

ただし監視員が投票者に干渉するのは禁じられている。もし監視員が投票者に投票資格がないと判断したら、投票所係員に伝えなければならない(投票者は投票資格に異議申し立てを受けても暫定票を投じることができ、資格が証明されれば1票としてカウントされる)。通常、異議申し立てには合理的な理由が必要であり、人種や年齢などは認められない。

だが多くの米国人は、トランプ氏のさっきの発言を有権者を脅すように求めたものと受け止めた。同氏は9月末の大統領選第1回討論会の席で、白人至上主義者を非難することを拒否し、暴力的な活動で知られる極右団体「プラウド・ボーイズ」に「下がって待機せよ」と呼びかけた。

米国の人権調査教育研究所のデビン・ブルクハルト所長によれば、ジョージア、ミシガン、ペンシルベニアおよびウィスコンシンでは、武装した集団が投票所に赴く計画があるとして、「彼らは防弾チョッキを着け、AR-15ライフルを持って会場に現れるだろう。彼らは第1回討論会でのトランプ氏の呼びかけで勢いづいた。投票所に押しかけるのは間違いない」と警告する。

だが今回の大統領選挙では、当日に投票する予定の有権者は約40%という歴史的低さだ。投票所での期日前投票で報告されたトラブルは小規模な2件だけだ。バージニアでトランプ支持グループが一列に並びスローガンを叫んでいたため投票者は遠回りしなければならなかったのと、トランプ陣営の投票監視員と称する女性が選挙事務所(投票所ではない)に入ろうとしただけだ。これが組織的な動きなら、むしろお粗末だ。それに選挙管理人や警察官は何かが起きれば迅速に対処する準備は整えてあるという。

最大の不確定要素は票の無効判定と集計だ。投票所に足を運んで直接投票するより、郵便投票は無効票としてはじかれる確率が高いと懸念する人は多い。今年は、郵便投票を選んだ人は共和党支持者よりも民主党支持者の方が多いという。また無効と判定された郵便票を有効票として認めさせるのが難しい。投票所で有効性を否定されたのを覆すよりも難しいため、無効判定はトランプ氏に大いに利する可能性がある。

■無効票の42%は黒人票だった州も

今のところ無効判定の横行を示す証拠は少ない。ノースカロライナ州では郵便票の1.3%が無効と判定された。16年の2.6%より低いが、投票率の高い州では1ポイントの差は数十万票の差を意味する。人種別に見ると、アフリカ系米国人の投票は無効になる確率が相対的に高く、ノースカロライナでは今年、郵便投票をした有権者のうち黒人は17%だったが、無効票の42%を占めている。

集計については9月の世論調査では米国人の3人に2人が、投票当日夜に勝者が判明することはないと予想していた。選挙結果が出るまで時間がかかるとのメッセージが浸透している証拠だ。だが、いつまでかかるかは州で異なる。フロリダの選挙結果は3日当日に判明すると思われるが、ウィスコンシンとペンシルベニアは、投票当日にようやく郵便票の集計を始める。

また米最高裁は19日、投票日の消印が押され、投票日3日後までに届いた郵便投票は集計に含めるとしたペンシルベニア州法を支持した。今回も接戦が予想される中西部で勝負がもつれ込めば、米国人は次期大統領の判明まで1カ月待たされる可能性がある。

(c)2020 The Economist Newspaper Limited. October 24, 2020 All rights reserved.

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