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ブレグジット「この関係は永続しない」 慶大・鶴岡准教授が見る英国のゆくえ - 毎日新聞 - 毎日新聞

鶴岡路人・慶応大准教授=本人提供

 英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた国民投票から4年半。英・EUが、自由貿易協定(FTA)など将来関係を巡る交渉でついに合意した。これまでの経済関係を続ける移行期間は年内で終わり、ブレグジット(英国のEU離脱)による「代償」に直面するのはこれからが本番だ。連合王国解体のリスクを抱えた英国はどこへ向かうのか。日本の対欧アプローチも変容を迫られている。「EU離脱」(ちくま新書)などの著書がある鶴岡路人・慶応大准教授に聞いた。【聞き手・八田浩輔】

「合意すれば混乱は生じない」という誤解

 ――EUは「ブレグジットに勝者はいない」と当初から強調してきました。「合意なき離脱」という最悪のシナリオは回避されましたが、英国の離脱派が当初見込んでいたような、自国に都合のよい内容ではありません。

 ◆ブレグジットによる経済的損失は確実に英国の方が大きい。各種の試算からもそれは明らかだ。ソフト(穏健な離脱)かハード(強硬な離脱)かと論じられてきた文脈からすれば、今回の結果は明確なハード・ブレグジットだ。ジョンソン英政権は、「主権を取り戻す」、つまり経済規制などの自由度を最大限に確保することを、EUとの関係維持による経済的利益よりも優先した。その結果が今回の合意だ。ただし、EUは今回の合意を「よい合意」だと言い、英国側も勝利を宣言している。互いに譲歩したわけだが、ともに満足しているのはよいことだ。EUと英国の双方の譲れない条件を考えれば、これが唯一の着地点だったのだろう。

 英国は世界最大のEU単一市場から切り離される。歴史的にFTAとは経済関係を強化するためのツールだった。しかし、今回は史上初めて経済の統合レベルを引き下げ、アクセスを狭めるための協定となった。そこに英EU双方が多大な労力を割かざるを得なかったのは非建設的だった。

 「合意なき離脱」という最悪のシナリオは回避されたが、「合意すれば1月1日以降に混乱は生じない」という誤解が特に英国側で広がっているとすれば非常に危険だ。FTAは関税なし、数量制限なしの条件とはいえ、英EU間では1月から通関等の手続きが発生する。企業は手続きへの対応を迫られ、物流にある程度の障害が生じるのは明白だ。想定と違うとの声が高まれば、英国内ではEU批判が高まるかもしれない。

 ――ブレグジット交渉において新型コロナウイルスの流行がもたらした影響はあったと考えられますか。

 ◆新型コロナの影響が交渉の内容や妥結の有無に影響を与えたかはまだ分からない。

 ただ、コロナ危機下の英国で起きた二つの議論は興味深かった。一つは、新型コロナで打撃を受けた経済に、ブレグジットの悪影響が加わるのは避けたいというもの。ましてや追い打ちをかけるような「合意なき離脱」は論外で、移行期間の延長を求める声もあがった。コロナ禍の極大化を避けるための合理的な議論だ。

 他方、コロナ禍によってすでに経済が危機的状態であるため、ブレグジットによるダメージは、たとえ合意なき離脱でも目立たなくてすむという計算もあった。極めて無責任だが、政治的には成立し得る議論だ。強硬離脱派はEUから主権を取り戻したと主張できれば、はっきり言って経済はどうでもいいという立場だ。コロナ危機に乗じて合意なき離脱でもなんでもやれ、という雰囲気もあった。

 しかし、最終的にジョンソン政権は交渉の席を立たなかった。英国はさまざまな段階で、EU側の譲歩がなければ交渉を打ち切るという脅しをかけていたが、新型コロナに関係なく交渉の席を立つ気はなかったのだと思う。経済界からも交渉をまとめてほしいという声は大きく、国内政治的にも、自ら交渉打ち切りを決断するリスクは高かった。

機能したジョンソン政権の瀬戸際戦術

 ――英国の内政の混乱も交渉長期化の一因となりました。EUにとってはメイ前首相、ジョンソン首相のどちらがくみしやすい相手だったのでしょうか。

 ◆常識的に交渉しやすかったのはメイ前首相だったと思う。ただメイ政権は、2018年11月にEUと合意した離脱協定と政治宣言を英議会で通すことができなかった。EUにとっては、英国内で承認を取れる相手と交渉しなければ意味がない。それがメイ政権の失敗からEU側が得た教訓だった。一方のジョンソン首相は合意なき離脱を辞さない瀬戸際戦術を続けた。本当に合意なき離脱の準備ができていたかどうかは歴史の検証を待つしかないが、EU側には少なくとも彼ならやりかねないという懸念が本気で芽生えた。ジョンソン首相の予測不可能性は、英国の交渉上の大きなパワーになった。最終的にはEU側もだいぶ妥協した。ジョンソン政権の瀬戸際戦術はある程度、機能したと言えるだろう。

 ――米国ではトランプ大統領の再選が阻止され、英EUの交渉も決裂が回避されました。「タガが外れた社会」には揺り戻しが生じるのでしょうか。2021年の展望は。

 ◆国際秩序の観点からは、トランプ政権の継続が回避され、英国とEUとの間の合意ができたのは非常に大きなニュースだ。さらにEUはコロナ禍で傷んだ経済の再生を目指す復興基金の創設で7月に合意した。加盟国間の対立を乗り越えて承認に至り、年明けから運用される。この観点でEUにとって2021年は希望の持てる状態になったとは言えるが、先が読めない新型コロナの流行は最大の不確定要素だろう。

 米欧関係では、バイデン米新政権の発足前からEU側によるラブコールは盛んだが、対中国などでの協力は一筋縄ではいかない。欧州企業の中国市場へのアクセスを拡大するEUと中国の投資協定の妥結が近づいているとの報道を受け、バイデンチームは早速EU側の動きをけん制している。国際秩序がトランプ前に戻るかのような言説には注意したい。そもそも4年前に戻ったら世界はバラ色なのかといえば、それも疑問だ。オバマ時代の米欧関係も順風満帆だったわけではないし、国際秩序も盤石とはほど遠かった。

英国が抱える「大きな爆弾」

 ――EUからの「主権回復」と引き換えに大きな分断を抱えた英国はどこへ向かうのでしょうか。

 ◆まず1月からブレグジットの本当の影響が表れる。国民投票から4年半がたち、英国には「EUを離脱しても大きな影響がなかった」という声が一部にある。しかし今までは移行期間としてEUの単一市場にも関税同盟にも入っていたので、影響は限定的だった。今後「こんなはずではなかった」という声は確実に上がってくる。ジョンソン政権は主権を取り戻した象徴として、従来のEU規則からの逸脱を試みるかもしれない。しかし本来、主権自体は目的ではなく、目的実現のための手段である。「何のための主権か」を問い直す必要がある。

 英国がブレグジットで抱えた最大の国内体制上の課題は…

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