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コラム:ウクライナ侵攻1年、ロシア疲弊で尽きぬ欧州の課題 - ロイター (Reuters Japan)

[ティノス島(ギリシャ) 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ロシアのウクライナ侵攻から1年近くが経過したが、プーチン氏がウクライナ戦争で勝利を収めるとは考えにくい。だが、永続的な平和が実現する見込みも薄いとみられる。

 2月20日、 ロシアのウクライナ侵攻から1年近くが経過したが、プーチン氏がウクライナ戦争で勝利を収めるとは考えにくい。写真はロシアのプーチン大統領(左)とショイグ国防相。モスクワ近郊で行われた式典で2022年8月撮影(2023年 ロイター/Maxim Shemetov)

欧州は軍拡競争の道を辿り、ロシア経済との切り離しが一段と進む見通しだ。こうした状況は、たとえプーチン氏が退陣しても長引く可能性がある。ただ、国防費の増額、ビジネス機会の喪失、ウクライナの再建費用といった負担は、ロシアが勝利するシナリオに比べるとはるかに軽微だと言える。

ウクライナ戦争が今後の展開については、多くのシナリオが考えられる。最も可能性が高いのは、ロシアもウクライナも軍事的な勝利を収められず、長期にわたって正式な和平協定を締結できないという状態だ。結局のところ、和平協定の締結には、ウクライナが領土を明け渡すか、ロシアがクリミア半島を含めた占領地域を全て返還する必要があるが、これはウクライナにもプーチン氏にも受け入れられない条件だ。

このため、両国は戦闘を続けるか、朝鮮戦争のような休戦状態に陥る可能性が高い。いずれの場合も、ロシア、ウクライナだけでなく、欧州全体に大きな犠牲を強いることになる。

ロシアは戦時経済で戦車、ミサイル、弾薬、航空機の生産を拡大。先月の財政赤字は250億ドルに急増しており、近く国民が増税、福祉予算の削減、インフレという負担を強いられるはずだ。その傍らで、プーチン氏は若い兵士をさらに戦場に送り込むことになる。

このため、1年前に始まった頭脳流出は今後も続くだろう。ロシア経済は停滞か縮小に向かうというのが、ブルーベイ・アセット・マネジメントのストラテジスト、ティム・アッシュ氏の見立てだ。

ウクライナは今後も人命の損失、建物の破壊、経済の混乱で矢面に立たされる。

欧州連合(EU)と英国も一定の痛みは避けられない。すでにロシアに代わる天然ガスの調達先の確保を迫られている。来冬が受け渡し期日の天然ガス先物の価格は昨年のピークから値下がりしたとはいえ、まだ2年前の4倍だ。こうしたガス価格の高騰でインフレが進行し、産業競争力が蝕まれている。ロシア産石油の輸入を制限しているため、原油の輸入価格は上昇。その一方で、中国やインドは安価なロシア産石油を購入している。

経済の切り離しもさらに進むだろう。EUは対ロシア制裁の強化を検討中だ。欧州企業がロシアで事業を展開するメリットは減っており、顧客、従業員、株主からも「脱ロシア」の圧力がかかっている。

<プーチン後のシナリオ>

もう1つの大きな問題は、プーチン氏が死去したり失脚した場合に何が起きるかだ。ここでも多くのシナリオが考えられる。フランス戦略研究財団のブルーノ・テルトレ副所長が提示するシナリオは(1)第二次世界大戦後の西ドイツのように民主主義に移行する(2)北朝鮮のように世界から孤立する(3)不満を鬱積させ、国力増強後の再占領を目指す(4)崩壊する──の4つだ。

テルトレ副所長によれば、最も楽観的なシナリオである「民主主義への移行」の可能性が最も低い。第二次世界大戦直後の西ドイツとは異なり、米国と同盟国がロシアを占領して援助することは考えにくいというのが根拠の1つだ。

もう少し楽観的な見方もある。ラドスワフ・シコルスキー欧州議会議員(元ポーランド外相)は、ロシアが自ら改革に乗り出したのは、クリミア戦争、日露戦争、第一次世界大戦、冷戦などで軍事的敗北を喫した後のみだと指摘する。

ウクライナやジョージア(グルジア)など旧ソ連国家で「カラー革命」と呼ばれる民主化運動が起きたことを踏まえ、ロシアが自力で民主化を進めると期待する声も一部であるが、ロシア政府に自国民を威圧する力があることを考えると、その可能性は低いとみられる。

もう一つのシナリオは、欧州に対してそれほど強硬ではない別の独裁者がプーチン氏に代わって政権を握るというものだ。こうした独裁者は、経済的な孤立を回避し、中国の言いなりにならなければ、比較的容易に人心を掌握できると考えるかもしれない。「プーチン2.0は経済と中国についてより現実的な路線を取るのではないか」とモンテーニュ研究所のミシェル・デュクロ特別顧問(地政学)は指摘する。

<国防費と復興支援>

こうした政権交代が起きた場合、欧米はロシアとの関係修復に関心を寄せるだろう。特にロシアを中国から引き離せると判断した場合はそうだ。もっとも、本格的な雪解けにはウクライナとの和平協定の締結が必要になる。

たとえその場合でも、ロシアが欧州にとって再び重要な天然ガスの供給国となることはない。EUと英国は近く代わりの調達先を確保する見通しで、再生可能エネルギーの生産も強化している。投資家、ハイテク企業、消費財メーカーにとっても、ロシアが魅力的な市場になることはないだろう。

また、ロシアの強硬姿勢が弱まったとしても、民主主義に完全に移行しない限り、脅威であることに変わりはない。ウクライナ戦争で軍隊が深刻なダメージを受けても、核兵器の保有は続けるはずだ。

プーチン氏の脅威を素早く察知できなかった欧州は、たとえプーチン氏が退陣しても、すぐに警戒を緩めることはないだろう。ドイツとフランスはすでに大幅な防衛予算の増額を計画しており、英国も予算拡大を議論している。米国は中国の脅威に再び目を向けており、欧州は長期にわたって国防費を増額することになる。

さらにウクライナの復興費用の問題がある。世界銀行は現時点で復興費用を5000億ユーロと推定しているが、費用は膨らむ方向にある。ウクライナの戦前の国内総生産(GDP)はわずか2000億ドルで、民間部門が復興費用全額を負担することは不可能だ。ウクライナを加盟候補国として承認したEUが、復興費用の大半を負担することになるだろう。

こうした負担は、プーチン氏がウクライナ戦争に勝利するシナリオと比べれば、はるかに軽微だ。同氏が勝利すれば、バルト海諸国とポーランドをロシアの侵略からどう守るかが欧州の頭痛の種になる。いずれにしても、1年にわたる戦争と制裁で疲弊したロシアは、今後も欧州にとって厄介な問題であることに変わりはない。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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