森友学園問題に関する財務省の決裁文書改ざんを苦に2018年に自殺した財務省近畿財務局の元職員赤木俊夫さん(当時54)の妻雅子さん(50)が、国と同省理財局長だった佐川宣寿元国税庁長官に損害賠償を求めた訴訟の進行協議(非公開)が15日、大阪地裁であり、国が約1億円の賠償請求を受け入れる書面を提出した。国との訴訟は終結し、今後は佐川氏のみを被告として続く見通し。請求棄却を求めて争ってきた国は態度を一転、賠償金を支払うことで幕引きを図った形だ。

雅子さん側への事前の通告はなかった。雅子さん側によると、国家賠償請求訴訟で国が訴えをそのまま認めて終結させるのは極めて異例。雅子さんは大阪市内で会見し「ふざけんな。国は誰のためにあるのか」と声を張り上げた。「負けたような気持ちだ。真実を知りたいと訴えてきたが、こんな形で終わってしまい、悔しくて仕方がない」。

訴訟を通じて「赤木ファイル」が開示されたのに改ざんの具体的な指示系統や、佐川宣寿元国税庁長官らの関与は曖昧なまま。雅子さんは、財務省が赤木さんに苦しい改ざん作業を強いたと語り「ひきょうなやり方で裁判を終わらされた。夫はなんと言うんだろう」と口にし、うつむいた。

代理人弁護士は「事実を解明する訴訟だったが非公開の協議で訴訟を終わらせてしまった。国は隠したい事実があるのではないか」と批判した。

国側は地裁に提出した書面で、赤木さんの自殺原因を「決裁文書改ざんを含め、森友学園案件への対応に忙殺された」と説明。請求を受け入れた理由は「いたずらに訴訟を長引かせるのは適切ではない」とした。

岸田文雄首相は官邸で記者団に「裁判所の訴訟指揮に基づいて訴訟を進めてきた。財務省が損害賠償について全面的に認めた」と述べた。

佐川氏側も15日、地裁に書面を提出。公務員個人は責任を負わず、国が賠償すると主張した。

◆財務省決裁文書改ざん 森友学園への国有地売却を巡り、財務省理財局長だった佐川宣寿元国税庁長官は国会で森友側との価格交渉を否定、記録を廃棄したと答弁した。その後、交渉をうかがわせる文書や音声データが見つかり、安倍晋三元首相の妻昭恵氏や、政治家が関わる記述を削除するなど14件の文書を改ざんしたことが発覚。近畿財務局の元職員赤木俊夫さんが佐川氏らの指示で改ざんを強いられたとしてうつ病を発症して休職、2018年3月に自殺した。文書改ざんや背任などの疑いで告発された佐川氏らは不起訴となった。